第3回|選び方 「寝心地」だけでは決められないマットレス選び
第1回では、昔の日本の敷き寝具から、ウレタンマットレスがどのように広がってきたのか。
第2回では、「高反発」「低反発」といったウレタンの素材・構造の違いについてお話ししました。
では、実際にマットレスを選ぶとき、何を基準にすればよいのでしょうか?
「硬い方がいい?」
「柔らかい方がいい?」
「高反発の方が寝返りしやすい?」
もちろん、こうした違いも大切です。
しかし、マットレス選びは**「寝心地が良いかどうか」だけでは決められません。**
体に合っているか。
寝返りがしやすいか。
体圧を適切に分散できているか。
そして、どのくらい使えるのか。
さらに、
なぜ同じ「ウレタンマットレス」なのに、2万円程度のものから25万円程度のものまで価格に大きな差があるのか?
というところまで考えてみる必要があります。
今回は、そんな「マットレスの選び方」を考えてみましょう。
まずは「寝心地」だけで選ばない
マットレスを試したとき、
「気持ちいい」
「ふわっとしている」
「しっかり支えてくれる」
という感覚は、とても大切です。
ただし、店頭で数分寝て「気持ちいい」と感じることと、毎晩使って快適に眠れることは、必ずしも同じではありません。
例えば、柔らかいマットレスは体が包み込まれるような感覚があり、気持ちよく感じる方もいます。
一方で、沈み込みが大きすぎると、寝返りの際に体を動かしにくくなることがあります。
反対に、反発力のあるマットレスは寝返りをサポートしやすい一方、体に合わない硬さであれば、肩や腰などに圧迫感を感じることもあります。
つまり、
「柔らかい=良い」
「硬い=悪い」
「高反発=正解」
という単純な話ではありません。
大切なのは、自分の体を適切に支えながら、自然に寝返りができることです。
「体圧分散」と「寝返り」は、どちらも大切
マットレスを選ぶときによく聞くのが「体圧分散」という言葉です。
寝ているとき、体重が一部分に集中すると、肩や腰などに負担を感じることがあります。
そこで、マットレスが体の形に合わせて適切に沈み込むことで、荷重を分散させる。
これが体圧分散の基本的な考え方です。
ただし、体圧分散だけを追求すればよいわけではありません。
体が沈み込みすぎると、寝返りをするときに余計な力が必要になることがあります。
人は一晩の間に何度も寝返りをします。
寝返りには、同じ場所に負担が集中することを避けたり、寝姿勢を調整したりする役割があります。
そのため、
「体圧を分散すること」と「自然に寝返りができること」。
この2つをバランスよく考えることが大切です。
「腰痛=硬め」は、本当に正解?
マットレス選びでよく聞くのが、
「腰痛があるなら、硬めのマットレスがいい」
という話です。
確かに、柔らかすぎるマットレスで腰や臀部が深く沈み込んでしまうと、寝返りがしにくくなったり、寝姿勢が崩れたりすることがあります。
そのため、「柔らかすぎないもの」を選ぶという考え方には、一理あります。
ただし、ここで注意したいのが、
「硬めがいい」=「硬ければ硬いほどいい」ではない
ということです。
例えば、体に対してマットレスが硬すぎると、肩や臀部など体の出っ張った部分に圧迫感が出ることがあります。
すると、体がその状態を嫌がって、無意識に姿勢を変えることもあります。
ここで大切なのが、
「寝返りがしやすい」と「寝返りが多くなる」は違う
ということです。
寝返りは必要なものです。
しかし、「寝返りは多ければ多いほど良い」というものでもありません。
適切なマットレスであれば、必要なときに自然に寝返りができることが大切です。
一方で、硬すぎることで体が落ち着かず、何度も姿勢を変えなければならないのであれば、「寝返りがしやすい」とは少し違います。
寝ている間も体が細かく動き続けることで、翌朝に、
「寝たはずなのに、なんだか疲れが取れていない」
と感じる方もいます。
もちろん、腰痛の原因や感じ方は人によって異なります。
だからこそ、「腰痛だから硬いマットレス」と一括りにするのではなく、
「腰が沈み込みすぎないか」
「体の一部分だけに圧力が集中していないか」
「自然な寝返りができているか」
という視点で考えることが大切です。
「寝返りは多ければいい」ではない
ここは、マットレス選びで意外と見落とされやすいところです。
寝返りは、同じ場所に負担が集中することを防ぐためにも必要です。
しかし、
寝返りが少なすぎることと、
寝返りが多すぎること
のどちらも、必ずしも良い状態とは限りません。
重要なのは、必要なときに無理なく寝返りができること。
例えば、柔らかすぎるマットレスでは、体が沈み込んで寝返りに力が必要になることがあります。
反対に硬すぎるマットレスでは、体の一部分に圧迫感が生じ、姿勢を何度も変えたくなる場合があります。
つまり、
「寝返りをしやすいマットレス」とは、単に反発力が強いマットレスではありません。
体が適切に支えられ、必要以上に力を使わなくても自然に動ける。
そのバランスが重要なのです。
では、なぜ価格に大きな差があるのでしょう?
ここで、一つ疑問が出てきます。
ウレタンマットレスには、比較的手頃な2万円前後の商品から、20万円を超えるような商品まで、非常に幅広い価格帯があります。
もし違いが「寝心地」だけだとしたら、これほど大きな価格差を説明するのは難しいでしょう。
実際には、マットレスにはさまざまな違いがあります。
例えば、
ウレタンの種類
ウレタンの密度
厚み
反発特性
カットや凹凸などの構造
体圧分散の設計
寝返りを考えた設計
カバーなどの仕様
耐久性
メンテナンスのしやすさ
などです。
つまり、価格を見るときには、
「寝たときに気持ちいいか」だけではなく、「中身がどのように作られているのか」
を見る必要があります。
耐久性を考えるなら「密度」にも注目
ウレタンマットレスの耐久性を考えるうえで、知っておきたいのが「密度」です。
密度とは、簡単にいうと、一定の体積の中にどれだけウレタンの材料が詰まっているかを示すものです。
同じような形のマットレスでも、使われているウレタンの密度が違えば、耐久性などに違いが出ることがあります。
一般的には、同じ種類のウレタンを比較した場合、密度が高いものほど耐久性に配慮された設計になりやすいと考えられます。
ただし、
「密度が高ければ絶対にへたらない」
という意味ではありません。
実際の耐久性は、
密度だけでなく、ウレタンの種類・厚み・構造・使用する人の体格・使用時間・湿気などによっても変わります。
そのため、価格だけを見て、
「高いから長持ちする」
「安いからすぐへたる」
と判断するのも適切ではありません。
マットレスを選ぶときは、可能であれば、
「このマットレスには、どのようなウレタンが使われているのか?」
まで確認してみるとよいでしょう。
「へたり」は、体重がかかる場所から考える
マットレスは毎日、同じような場所に体重がかかります。
特に、腰や臀部(お尻)の部分は体重が集中しやすい場所です。
長期間使用することで、その部分のウレタンが徐々に変化し、「へたり」と呼ばれる状態になることがあります。
ここで重要なのが、マットレスの形状です。
大きく分けると、
1枚物のマットレスと
三つ折りなどの分割タイプ
があります。
1枚物の場合
1枚物のマットレスは、全体が一体になっています。
そのため、腰・臀部などのよく体重がかかる部分がへたってしまった場合、基本的にはマットレス全体を買い替えることになります。
もちろん、製品によっては裏返しやローテーションができるものもあります。
しかし、構造上、へたりが出た部分だけを簡単に入れ替えるということはできません。
三つ折りの場合
一方、三つ折りタイプでは、製品によっては3つの部分を入れ替えて使用することができます。
例えば、
頭側 → 腰側 → 足側
というようにローテーションすることで、腰・臀部など特定の場所への荷重集中を分散しやすくなります。
これによって、へたりが出る時期を遅らせたり、マットレスをより長く使える可能性があります。
また、三つ折りタイプは立てかけやすいため、湿気対策がしやすいというメリットもあります。
もちろん、
「三つ折りだから素材そのものが長持ちする」
という意味ではありません。
大切なのは、
へたりが出てきたときに、場所を入れ替えて対応できる構造なのか。
ということです。
これは、長く使うことを考えると非常に重要なポイントです。
「何年使えるか」だけでなく「どう使い続けられるか」
マットレスは、毎日使う寝具です。
だからこそ、購入した瞬間の性能だけでなく、
「数年後も快適に使えるのか」
という視点を持っておきたいものです。
例えば、
ウレタンの密度
厚み
構造
ローテーションの可否
カバーのメンテナンス性
湿気対策のしやすさ
などです。
「耐久性が高い」ということだけでなく、
「へたりが出てきたときに、どう対応できるのか」
まで考える。
これも、マットレス選びの一つです。
そして、ウレタンなら「湿気」も考えたい
ここまで、寝心地や耐久性についてお話ししました。
しかし、ウレタンマットレスにはもう一つ考えておきたいことがあります。
それが湿気対策です。
ウレタン自体は、綿などの繊維素材のように汗を吸収することを得意とする素材ではありません。
寝ている間には、汗や湿気が発生します。
そのため、
吸湿性のある敷きパッドやシーツを使う
定期的にマットレスを立てて風を通す
部屋の湿度を調整する
マットレスの下に湿気がこもらないようにする
など、湿気をためない工夫が大切です。
特に三つ折りタイプは、折りたたんで立てやすいというメリットがあります。
つまり、
「寝心地」
「寝返り」
「体圧分散」
「耐久性」
「メンテナンス性」
これらは別々の話ではありません。
毎日使う寝具だからこそ、すべてを合わせて考える必要があります。
高いマットレスほど「良い」とは限らない
ここまで読むと、
「じゃあ、25万円のマットレスを買えばいいの?」
と思うかもしれません。
もちろん、そういうことではありません。
価格が高い商品には、高密度のウレタンを使用していたり、複雑な構造で体圧分散や寝返りを考えていたり、耐久性やメンテナンス性まで考えられている商品があります。
一方で、その性能を十分に活かすには、その人の体格や寝姿勢に合っていることが前提です。
どれだけ高価なマットレスでも、自分の体に合っていなければ、満足できるとは限りません。
反対に、比較的手頃なマットレスでも、自分の体格や寝姿勢に合っていて、快適に使える場合もあります。
だからこそ、
「値段が高いから良い」ではなく、
「なぜこの価格なのか」を考えてみる。
これが大切なのだと思います。
マットレス選びで確認したい6つのポイント
最後に、マットレスを選ぶときに確認したいポイントをまとめてみましょう。
① 自分の体に合っているか
肩・腰・臀部など、一部分だけに負担が集中していないか。
② 自然に寝返りができるか
沈み込みすぎて、体を動かしにくくなっていないか。
逆に、硬すぎて何度も姿勢を変えたくなっていないか。
③ 体圧分散と支持のバランスはどうか
柔らかさだけではなく、体を適切に支えられているか。
④ 耐久性はどうか
ウレタンの種類や密度、厚み、構造などを確認してみる。
⑤ へたりへの対応はできるか
1枚物なのか、三つ折りなのか。
ローテーションできる構造なのか。
長く使うことまで考えて選ぶ。
⑥ メンテナンスしやすいか
湿気を逃がしやすいか。
カバーを洗えるか。
日常的に手入れしやすいか。
こうしたポイントを確認すると、単純に「硬い・柔らかい」「高反発・低反発」というだけでは見えてこなかった違いが見えてきます。
まとめ|「良いマットレス」より「自分に合うマットレス」
3回にわたって、ウレタンマットレスについて考えてきました。
第1回では、ウレタンマットレスがどのように広がってきたのか。
第2回では、高反発・低反発など、ウレタンの素材・構造の違い。
そして第3回では、実際に選ぶときのポイントについてお話ししました。
マットレス選びでは、
「寝心地が気持ちいい」
という感覚ももちろん大切です。
でも、それだけではありません。
体圧分散はどうか。
寝返りはしやすいか。
硬すぎたり、柔らかすぎたりしないか。
ウレタンの密度や構造はどうか。
どのくらいの耐久性を考えているのか。
へたりが出たときに対応しやすいか。
湿気対策やメンテナンスはしやすいか。
そして、それらを含めて、
「自分の体や寝姿勢に合っているのか」
を考えることが大切です。
マットレスは、決して安い買い物ではありません。
だからこそ、価格だけでも、寝たときの第一印象だけでもなく、
「なぜこのマットレスは、この価格なのか?」
というところまで見てみてください。
良いところだけを見るのではなく、弱点も知ったうえで選ぶ。
そして、弱点があるなら、敷きパッドやシーツ、湿気対策など、周りの寝具や寝室環境で補っていく。
それも含めて、「気持ちよく眠れる環境」をつくることが、マットレス選びなのではないでしょうか。
シーボ博士からのひとこと
マットレスは「買って終わり」の寝具ではありません。
毎日使うものだからこそ、選ぶところから、使い続けるところまで考える。
「高い・安い」だけではなく、
「自分に合っているか」
「長く使えるか」
「どう付き合っていくか」
そんな視点でマットレスを選んでみてください。
